「クライマーズ・ハイ」 [ブックレビュー]
メディア報道の責任と命の重さ
1985年8月12日、私は進学予備校のクラス担任として箱根のホテルにいました。
生活班で受け持った小学6年生7名。
日常から離れ、夏期集中講座のための合宿。
子どもたち、そして私たち教職員は、夏休み中の3泊4日、日常生活から隔離され、テレビやラジオなど外からの刺激を受けずに、勉強に集中しておりました。
そこに入ってきたのが1本の電話。
「ジャンボジェット機が墜落」
「Mさんのお母さんが、日航123便に乗っていたらしい」
Mさんは、私の班の生徒でした。
日本中、いや世界中を揺るがすこの航空機事故。
横山秀夫(著)「クライマーズ・ハイ」はこの夏、映画化されて話題になりました。
私にとって、あまりにも重いテーマのため、映画館に足を運ぶことができませんでした。
あれから20年余。
文庫化されたこの本を、今日、読み終えました。
文面に、事故の生々しい現場の直接描写がないことが救いでした。
真のジャーナリズムとは、記者の使命とは、命の重みとは。
読み進むうちに、航空機事故の問題ではなく、現代の報道に鋭いメスを入れた作品だということに気付きました。
毎日の新聞を作るために、大げさな言い方をすれば、命を削りながら記事を書き、それを世に送り出している新聞社と記者の皆さんの陰の努力を、理解できるようになったかも知れません。
朝刊1面をもっと注意深く読むことにしようと思います。
2008-09-19 23:51
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コメント(6)
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あの大事故に間接的に関わっていらっしゃったんですね。
この作品は以前にもNHKでドラマ化されていましたよね(見ませんでしたが)。
本も読んでいませんし、映画も観に行っていないので、内容については分かりません。
でも「報道」という事についてはとても興味があります。
今は定年退職しましたが、私達の父は新聞記者でした。
1面トップを飾るような記事を書く担当ではありませんでしたが、夜中でも事故や事件があれば、起きて現場や警察に飛んで行かなければならない、厳しい仕事でした。
今の時代なら、インターネットを使って瞬時に記事を送れますが、昔はFAXさえとっっても時間がかかる代物でした。
それよりずっと昔は、伝書鳩だったとか。
メディアは、伝える側の思惑で、読む側・見る側に「薬」にも「毒」にも、「善」とも「悪」ともなる印象を与える事ができますよね。
とても大切であり、一歩間違えばとても恐ろしい事でもあります。
両親は「新聞記者の姿を描いた作品」ということで、映画を観に行ったそうです。
by 青苺シル子 (2008-09-20 00:47)
この夏に読んだ唯一の長編です。
(ハリポタさえ途中までしか読んでないことを思いだしました�)
ぐいぐい引き込まれますよね。
いろいろなテーマがある作品だと思います。
SUMAKOさんのように特別な事情があったわけではないけれど、自分が事故を知った時にどこで何をしていたか、鮮明に覚えています。
それくらい衝撃的な出来事でしたよね。
映画もドラマもそれぞれのよさがありますよ。
by miki (2008-09-20 00:52)
青苺シル子さま
記者という仕事の過酷さ、人間として書きたい記事があっても、会社組織として考えた時に載せられない内容、職場の人間関係、周囲とのコミュニケーションなど、とても分かりやすく書かれた作品だと思います。
少なくとも、私は初めて知る世界でした。
私は、NHKのドラマ、映画は観ておりません。まずは原作をと思い、文庫になったので、読むことにしました。
読後感は悪くありません。
記者という職業を身近に感じてきた青苺シル子さまがお読みになると、私とはまた違った感想を持つのかも知れません。
by SUMAKO (2008-09-20 01:02)
mikiさま
私自身が、あの大事故のことを避けていたのかも知れません。
それでも、決して忘れられない夏の出来事です。
原作を読み、映画、ドラマを観てみようという気持ちになりました。
事実を誤解のないように読者に伝えることが一番大事です。しかし、事実をそのまま伝えて相手を傷つける危険があるということをいつも心に思っていないと間違いを犯してしまいそうですね。
ずっしりとした重み、そして深みのある小説でした。
by SUMAKO (2008-09-20 01:08)
私もそのニュースを知った時の衝撃を今でも忘れません。
そして実家が石垣島のため頻繁に飛行機を利用します。
飛行機に乗るたびに頭をよぎります。
クライマーズ・ハイ読んでみたいと思います。
by ラナ (2008-09-20 09:23)
ラナさま
飛行機は、乗ってしまったら自分の意志では何もどうすることも出来ません。ですから、航空会社、そしてパイロットの腕に自分の命を預けるしかありませんもの、心配ですよね。
この本は、お時間があるときに是非。おすすめです。
by SUMAKO (2008-09-20 23:39)